大判例

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東京地方裁判所 昭和27年(行)13号 判決

原告 奧川重男

被告 国

一、主  文

原告の訴を却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、「昭和十六年八月十五日に為された原告の日本国籍離脱及び昭和十八年十二月二十九日原告に対して為された原告の日本国籍回復許可は何れも無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求め、右請求が理由のないときは「原告が出生による日本国籍を有することを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」旨の判決を求める旨申立て、その請求の原因として、

「原告は大正十一年八月二日アメリカ合衆国に於て、日本人奥川重吉、同すて間の長男として出生し日米二重国籍を取得した。その後昭和十六年八月十五日原告名義で原告の日本国籍離脱の届出がなされ、原告は日本国籍を喪失したことになつて居た。そこで原告は昭和十八年十月十五日当時の内務大臣に対し日本国籍回復の許可を申請したところ、同年十二月二十九日右国籍回復の許可があつた。然し前述の原告の日本国籍離脱の届出は、原告の父重吉が原告の承諾も得ないで原告名義を冐用してなしたものであるから何等の効果も生ずるものではなく、原告は日本国籍を離脱しなかつたものである。従つて原告は右離脱届出に拘らず依然として日本国籍を保有するものであるからこれに対してなされた前述国籍回復の許可も亦当然無効であると言はなければならない。よつて右国籍離脱及び国籍回復許可が何れも無効であることの確認を求める。

右請求を容認され得ないとしても、前述の処と同一の事実よりして右国籍離脱の届出は何等の効果も生ぜしめるものではなく、又右国籍回復許可も当然無効であるから原告は日本人奥川重吉、同すて間に出生したことによつて取得した日本国籍を現に有するものである。よつて予備的に原告が出生に因る日本国籍を有することの確認を求める。」と述べ、

なお「右国籍の離脱及び国籍回復の許可が有効であるとすれば現行米国国籍法の規定により原告は米国籍を喪失したことになるが、無効であるとすれば原告は米国国籍を失はないことになるし、日米二重国籍を有する結果として原告は今後日本国籍を離脱し得ることともなる。更に右国籍離脱及び国籍回復許可は原告の戸籍に記載されて居るが、それらは何れも無効なものであるが、之が訂正は確定判決を俟たねばならぬものである。従つて原告は本訴確認を求める利益がある。」と述べた。(証拠省略)

被告指定代理人は、請求棄却の判決を求め、

「原告主張の請求原因事実中、原告が大正十一年八月二日アメリカ合衆国に於て日本人奥川重吉、同すて間に長男として出生し日本国籍及び米国国籍を取得したこと、昭和十六年八月十五日原告名義で原告の日本国籍離脱の届出がなされたこと、原告が昭和十八年十月十五日当時の内務大臣に対し日本国籍回復許可を申請し同年十二月二十九日その回復許可があつたことは何れも認めるが、その余の事実を否認する。前述国籍離脱の届出がなされた当時原告は既に十九年に達して居るのであつて、原告の父が原告に無断で原告の国籍離脱の届出をなすとは考えられない処であり、原告が前記国籍回復許可の申請をなすに際つて原告主張のような事実はこれを表示せず又昭和十六年当時日本に於て勉学中であつた原告は強化されて来た徴兵を免れるため日本国籍を離脱する必要があつたこと等の事情から推して原告はその父に依頼して前記国籍離脱の届出をしてもらつたものと思はれるので、前記国籍離脱の届出は有効であり、従つて前記国籍回復許可も亦有効である。よつて原告の有する日本国籍は出生によるものではなくて、前記国籍回復許可によるものである。」と述べた。

(証拠省略)

三、理  由

一、本件国籍の離脱及び回復許可の無効確認の訴について

本件に於ける日本国籍の離脱とは、一定の要件を具備する日本国籍を有する者が、国籍法所定の届出(意思表示)をなすことによつて当然日本国籍を喪失することである。これを言い換えれば、従前の日本国籍を有すると言ふ法律関係が、日本国籍を有しないと言ふ法律関係に変動すると言ふ、その法律関係の変動自体である。その変動自体について有効、無効を言為することは元来無意味なことであるし、変動の発生要件たる離脱届出の無効と解しても、意思表示の有効、無効が確認訴訟の対象たり得ないことは、本来確認訴訟は現在に於ける権利義務又は法律関係の存否(民事訴訟法第二百二十五条の場合を例外として)のみを目的として居ることからして極めて明白な処であつて、原告が本訴に於て前述の如き法律関係の変動自体又は意思表示の無効なることの確認を求める意思であるとは考えられない。原告が請求原因として主張する処から考えて、原告が本件国籍離脱の無効確認を求める真意は、原告は本件国籍離脱の届出によつては日本国籍を喪失せず、依然としてこれを有して居たものであると言ふにあると認められる。ところで原告の主張によれば原告の有して居た日本国籍は原告が日本人奥川重吉、同すて間に出生したことによるものであると言ふにある。従つて原告は、原告が日本国籍を有すると言ふ法律関係の存在の確認を求めて居るか、又は原告が日本人の間に出生したことによつて取得したと言ふ限定附の日本国籍を有する旨の確認を求めて居ることになる。処が出生に因ると、国籍回復許可に因ると、その何れであるかを問わず、単に原告が日本国籍を有すると言う法律関係の存在については、被告に於てもこれを争はないのであつて、原告がその争のない法律関係の存在の確認をわざわざ訴求するものとは思へない。して見ると原告の真意は出生に因る日本国籍を有することの確認を求めて居るものと解せざるを得ないが、それは原告の予備的請求の形式で申立てて居るところに帰着するので結局原告の第一次請求中、離脱の無効確認請求の部分は予備的請求を言い換えたにすぎないものであり、表現の形式を異にするだけで同一の請求である。

次に本件国籍回復許可は、一定の要件を具備した者が所定の申請をなした場合に、その申請者に対して日本国籍を取得せしめる一個の行政処分である。行政処分と言うものは、処分の対象となつた者に一定の権利を与へ、義務を課し、その他何等かの法律効果を発生せしめる行為である。行政処分が行為である以上、それ自身が確認訴訟の対象となり得ない筈である。通常行政処分の無効確認なる表現を用いるのは便宜的なものにすぎないのであつて、その確認訴訟の対象となつて居る、当該係争行政処分によつて生ずべき一切の複数的権利又は法律関係の不存在確認なのである。従つて本件国籍回復許可が前述の如きものである以上、その無効確認訴訟の対象となるものは、原告が日本国籍を有しないと言うことでなければならない。処が原告が請求の原因として主張する処は、原告が日本国籍を有することを前提として居り、本件国籍離脱の無効なる主張と考え併せ、原告が日本国籍を有しないことの確認を求めるものとは考えられない。従つて原告が本件国籍回復許可が無効であると言ふ真意は、原告は本件国籍回復許可によつて日本国籍を取得したものではないと言ふにあると認められる。而して原告の主張によれば原告は日本人の間に出生したことにより日本国籍を取得したと言ふにあるので、此の点に於ける原告の主張を要約すれば、原告は出生に因る日本国籍を有するのであつて、本件国籍回復許可によつて取得した日本国籍を有するものではないと言ふことになる。その後段は原告が出生に因る日本国籍を有するとの前段の主張を導出するためのものにすぎないから、原告がここに於て請求する処は原告が出生に因る日本国籍を有する旨の確認を求めることに帰着する。よつてこれまた原告の予備的請求と同一に帰着するので、原告は第一次請求、予備的請求と分けて居るが、その実予備的請求の形式で申立てられた一個の請求に外ならないので、次に一括し判断する。

二、原告が出生に因る日本国籍を有することの確認を求める訴について、

原告のこの点の請求は二つの部分に分析することができる。第一は原告が日本国籍を有することの確認を求める部分、第二は原告の有する日本国籍が出生に因るものであることの確認を求める部分である。原告が右第一の部分のみの確認を求めるものと考えられないことは前述の通りである。従つて原告の請求は第二の部分のみであるか、又は第一、第二の部分を不可分的に結合したものであるかの何れかである。第一の部分が法律関係の存在の確認を求めるものであることは明らかである。従つて問題は第二の部分が法律関係の内容であるか否かにある。

凡そ日本国籍を有する又は有しないと言ふことは日本国法上定められた複数的権利義務を有すると言ふ、国に対する総括的法律関係の存否を意味する。その法律関係の内容として内包される複数的権利義務は法定されて居り、個人又は国家の具体的事例に於ける個別的意思、個別的事実に従つて左右されるものではない。個人又は国家の個別的意思が働き得るのは、その内容の特定された権利義務の総括的地位即ち内容の予め定まつて居る法律関係に入るか否か、又は法律関係から出るか否かの決断に限られる。従つて取得原因の如何により取得された国籍の内容、即ち国に対する総括的法律関係に差異を生ずるものではない。試みに思へ、若し国籍を有すると言ふ法律関係が、その取得原因により差異があるものとすれば、出生による日本国籍を有する者に対してなされた国籍回復許可が当然無効と断ずべき根拠を失うわけで、この点に関する原告の主張と出生による国籍の取得の確認を求め得るとする原告の主張とは、それ自体矛盾するものとなるであろう。以上の通りであつて、原告の有する日本国籍が日本人の間に出生したと言ふ要件に因るものか否かは原告が日本国籍を有すると言ふ法律関係の内容にはなり得ない。して見れば国籍取得原因は畢竟過去の法律事実にすぎないものと言はざるを得ない。(この点は簡略であつたが最高裁判所昭和二十四年(オ)第二四号の判例が指摘して居る処である。)

以上説示したところにより原告の本訴が民事訴訟法上確認の訴として不適法なことは明白であるからこれを却下する。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 毛利野富治郎 北村良一 山田尚)

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